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またまた武装探偵社の面々と任務先にて遭遇してしまい、
ついのこととてせっかくの華やかな美貌を苦々しげに歪めてしまったマフィアの美姫様。
隠し立てをしたところで、口八丁の太宰嬢が相手で
こっちにはそんな姐様に従順な黒獣の姫もいると来ては、
難色を示しても意地を張ってみても ただの悪あがきでしかなかろうと。
ここは何が最適解かと割り切ったものか、
帽子の幹部嬢も そちらの事情とやらを明かしてくださって。
それによると、ポートマフィアの側でも
探偵社に降ってきた依頼と同じ騒動を調べることとなっての彼女ら二人の派遣だという。
雑然とした都市部や繁華街ならともかく、
昼間ひなかに通りすがる人の数も知れているような片田舎へ、
黒服部隊が大人数で押しかけては目立ってしょうがない。
そこで、何か急な事態が持ち上がっても
武力でも融通でも何とか出来ようこの二人が送り出されたらしく。
要請の切り口も探偵社側とは微妙に異なって、
「結構 名のある資産家や企業主の甚六や遊び人娘が、
相当数 連絡も取れずの帰って来ないままになってるらしくてな。」
小遣いほしやでとか、実家の屋敷で宴会騒ぎを構えるときくらいしか
実家には帰って来ない子らなので、親御もあまり気に留めてはいなかった。
身代金の要求があったわけでなし、
自分たちの意思から夜遊び遠出にうつつを抜かしているのだと思っていた。
そんな息子や娘らが、すっかりと人相も変わってのやつれた姿で、
無理から遠洋船に乗せられているのを見ただの、
評判の悪いアジア系の人買いの船へ積まれるコンテナに引きずり込まれていただのと、
悪夢としか思えぬ話が次々ともたらされたものだから、
裏社会を律して監視する、
ある意味 “ガーディアン”でもあるポートマフィアに頼って来たという順番らしく。
「成程ねぇ。」
そういった富裕層の子らとなると、普通の遊びに飽きてるものだから、
心霊騒ぎにしても最初の段階で聞きかじり、行ってみようぜと運んだクチに違いなく。
「こちらも同じ案件だ。
心霊現象騒ぎを見物しに繰り出してきたらしい連中が、何故だか姿を消している。
そっちのように身内からの届けで発覚したんじゃあなくて、
不法駐車されたままの車が引き取られないままになってるらしくてな。」
国木田女史の説明に、おやと眉を顰めた中也だが、
「そういや、ここまで来るには車で来るしか儘は利かねぇしな。」
JRの駅もあるにはあるが、問題の廃屋まではずんと歩かねばならぬ距離がある。
駅と里の間にはバスもあるが、
1時間に一本という少なさで、しかも夕方7時台が最終と来て、
知らずにやって来たなら辿り着けても帰れないという事態になりかねない。
とりあえず、問題の騒ぎの舞台でもある廃校跡とやらへ足を運んでみた面々だったが、
木造の平屋建て、しかも瓦葺きという、
なかなか趣のある校舎が半分ほど朽ちてうずくまる其処は、
この時期、雑草の下栄えがぐんぐんと伸びる中に
朝礼台も鉄棒や雲梯らしきものも半分ほど埋もれていて、
「何かこういう風景ってアニメの中で見たことあるなぁ。」
「何かしらあって滅びた人間の文明が自然に侵食された構図か?」
おや国木田くん、キミもアニメとか観るんだねぇと
外套の裾が蔓草に絡まれかかったのを綺麗な所作で払いつつ、
太宰がいつものように揶揄って。
「太宰〜〜〜 」
茶化すのも大概にしろと、やや赤くなってお顔を上げた生真面目な女史だったが、
視野の中に収まった虎の子ちゃんと それから、
彼女と同じようなお顔で “はぅう ///////”と赤くなってたマフィアの禍狗姫さんの
お揃いの感動色に圧倒されたのは余談である。
それはさておき。
「人の出入りがあるのかどうか、見定めるのは容易いが、
さて今日明日も誰ぞが来るものかねぇ。」
昇降口や窓などを見澄ませば、
埃の上の足跡や戸口に絡まる雑草が踏みにじられた跡もなくはないので、
ようよう観察すれば 何人ほどの出入りがあったかや、
どの部屋への出入りが多かったかなど様々に探れなくはないが、
それがこれからのどんな役に立つのかは めっきりと不明。
一応軍警が動いたくらいに取り沙汰されているのだ、
そんな気配に向こうでも気づいてのこと、
見切ってしまって此処にはもう現れないかもしれぬ。
まだいけると、大胆にもまだ出入りがあったとしても、
その規則性はそれこそ未定で、
「此処に張っていても却って警戒されるばかりかも知れないな。」
監視は手慣れている面子ではあるが、こたびはさすがに場所が悪い。
そう離れてはないところへ車を止めていては、
心霊騒ぎへの来訪者と解釈されたとしてもそれなりに警戒はされようし。
「ここいらには稀な美人さんたちがおいでと、早速話題になってるしねぇ。」
里に一軒しかない雑貨屋さんでペットボトルの飲み物を仕入れてきた太宰が
肩をすくめてそうと言うに至り、
同じ社の賢治ちゃんが
こういう長閑な土地では ちょっとしたことでも話題になりやすいと
朗らかに言ってたことも思い出されて。
「監視カメラを仕掛けて、大外から監視するか。」
此処への観察は遠隔監視とし、
今日のところは一旦離れるかという結論が出た皆様だった。
◇◇
流石は片田舎で、都市部の住宅街同様 宿なんてないというのが判り、
ああそれもあって軍警は現場での対処をこっちへ丸々投げて来たのかと
今更納得した国木田さんの決により、
近場の小都市でシティホテルに部屋を取っていたらしいマフィア組に倣い、
探偵社の面々も同じ宿へと逗留することにして。
此処までの調査情報を突き合わせ、方針というのを談じ合い、
今宵の監視は国木田が請け負うと言い出したのをキリに、それではと
実地行動に出るまで、各々で本部へ連絡をするなり休息をとるなりすることと相成って。
修学旅行じゃあるまいにと、
それぞれに当てがあるものかさっさと外へ出てく行動的な先達らを見送っておれば、
ロビーまで出て来ていた中也と目が合い。
どうせ共闘状態のようなもの、一緒に居ても問題はなかろと、
誘われるままに彼女の部屋まで足を運んだ敦だったが、
「やっぱ。幽霊ってのはピンとこねぇのか?」
「はい。」
ちょっとランクが上らしい部屋まで、
近所のグリルからの出前で洋食のセットを頼んでいただいて、
久し振りに差し向かいでのお食事を堪能し。
それから、何てことないお喋りでもと、ベッドルームの方へ場を移して。
となると、どうしても話題は対処中の案件のことになる。
またもや心霊現象がらみの空気がまといつく代物、
まさかとは思うが、心理系の異能だったら振り回されるやもしれずで。
あのQの呪いの異能に翻弄された敦だと聞いているだけに、
おっかないなら庇ってやらねばと思っていたらしい、それは頼もしき姐様だったようだが。
ご本人はと言えば、相変わらず
掴みどころのないものは怖がりようがないという感覚のままな敦嬢である様子。
「実際、捕まえられるものでなし、目撃談も曖昧なものばかり、
文字通り捉えどこがないことなのに、そうまで信じてる人がいる方が不思議で。」
キョトンとして見せる虎の子ちゃんであり。
小首を傾げたその所作に添うて、
白銀の髪がさらりと片方の肩を撫でるところが何とも愛らしい。
すぐ傍らに腰かけてそんな所作を見せてくれた愛し子へ、
ポートマフィアの女傑幹部様、話のお題も忘れて“あいたたた”と胸元を押さえかかったほどで。
だが、
「こないだの騒動の時も言いましたけど、
生きてる人間の方がよっぽどおっかないです。」
あっけらかんとした態度がやや陰り、
視線を揺らして俯きかかったのは、
あの孤児院で 同じ環境にあった子供らからも裏切られ続けた
そんな辛酸を思い出しでもした彼女なのだろう。
件の孤児院では、目に見えて判りやすい教育として、
職員へ悪い子を“売る”ことで点数を貰えるという、恐るべき決まりごとが敷かれており。
少しでも“悪い子”には虐待という罰が降る環境下で、
子供らは自衛のため、職員たちへの“通報”に勤しんだ。
そうやって 年齢が二けたにもならぬうちから、少しでもいい待遇でいるにはと、
平気で友を売り、嘘をつくという、
要領よく生きる術を 先を争うように身に着けていた子らだったそうで。
特におっとりしていたわけでもなかったが、
大人たちから殊更に突っ慳貪にされていた、文字通り毛色の変わった子だった敦は、
濡れ衣を着せられるカモにされ、覚えのないことまで告げ口されては懲罰を受け続けていたという。
大人からの扱いがひどかったのは、異能のせいもあったのだろうが、
そんな事情を知らされないまま、殺されかけるほどの折檻を受け続け。
一番物事を吸収しやすい時期にそんな目に遭い続けた弊害はさすがに残っていて、
自己評価が凄まじく低く、自分には幸いなど用意されてはないと、
それどころか誰かの迷惑になる存在なのだと思い込む傾向が強く。
どんなに過酷な条件下でも諦めない子である一方で、
誰かからの叱責や詰言には容易く心折れるほど、
アイデンティティに食い込むまでの虐げられようをした子なのだ。
捕まえられない曖昧なものより、人間の方がよほどおっかないと思うのも無理ないのかも知れぬ。
「…敦。」
寂しそうに俯く少女の それはすべらかな頬へ、中也はそおと手を延べる。
自身の物騒な異能の自制も兼ねてのこと、滅多には外さぬ革手套を外し、
それはやわらかな感触をじかに愛でながら、
「実証主義なところは嫌いじゃあない。
先の騒ぎン時も言ったが、怖いものなどないと胸を張れ。」
な?とまろやかに低めた声で囁いて、
前髪越し、細めた双眸で見やった愛しい子。
暁どきの空のよな、紫と琥珀の入り交じった瞳をほのかに潤ませている少女へ、
甘く微笑って宥めれば、
素直に こくりと頷く所作がまた愛らしく。
身を寄せ合うよにソファー代わりのベッドへ腰かけていた二人であり、
額同士をくっつけたそのまま、
サクランボのような淡色の口許へ自身の唇をそっと触れさせれば、
たちまち間近になった頬がさあっと赤く紅潮するのが何とも言えぬ。
手酷い折檻こそ受けていたとはいえ、性的な虐待はかろうじて免れていたようで。
それこそ本心ではこの子を守ってくれていた院長がそこまでの無体は許さなんだか、
それとも逆上すれば恐ろしい白虎になるため、流石に手は出せなんだのか。
そんなせいでか、発育不全で虚弱だった肢体に相当なほど 何も知らないでいた無垢な身は、
憧れてやまぬ姐様から、慈愛を込めて少しずつ拓かれている最中で。
「ふふ、可愛いなぁ 敦。」
薄い背中へ腕を回して痩躯を引き寄せ、
やんわりと触れた頬から耳朶へと唇の先をすべらせつつ囁けば、
「…っ、やぁだ。そこくすぐったいです。/////////」
恥じらいながらも逃げ出そうとはせず、
ふるると身をすくませる様子に滲む、甘えの気配の愛しさよ。
身をよじったそのまま、こちらのふくよかな胸元へ頬を摺り寄せ、
「ん、中也さん、いい匂いする。」
片言みたいな言いようをする舌っ足らずな声が、
姐様の総身の深部をじわりと熟れさせる。
そんな罪深い子へ、こいつはぁと苦笑を向け、
ついばむような口づけを降らせる幹部嬢だったりするのである。
to be continued.(18.06.15.〜)
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*こちらのお嬢さんたちもそれなりに進展しておいでなようですvv
そういや “百合っぽい”話は書いたことあるけど、
睦みっぽいところまで書いたのは初めてかもしんないvv

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